そのおかげで彼女は怯んでいるが……そんな事どうでもいい。

 ……菜花のこと、お前がそう言う権利ある?

 もう、いい。

「君と付き合う気はさらさらない。俺は菜花しか愛してないし、別れたのも俺の意図じゃない。……分かったらさっさと去れ。」

「……っ。」

 ……やってしまった、な。

 久々に素の自分を出したせいで、苛立ちがどうにも抑えられない。

 菜花のことを下に見られた途端、俺の中の何かが切れそうだった。

 あんな女に費やした時間がもったいない。

 菜花は誰にも貶されたくない。菜花だけが、俺に生きがいだから。

 ……その生きがいと会えなくなるのは、本当に最悪だ。

 今すぐ菜花のところへ行って苦しいくらいに抱きしめてあげたい。

 好きだって、愛してるって言いたい。

 でもそんな事して、父さんに言われでもしたら終わりだ。

 兄さんが怪我したせいで……そう言いたいが、兄さんに当たるのはお門違い。

 そう思う自分自身が醜く、情けなく見えた。

 好きな人に会えなくなるだけで、こんなあっさりと自分の馬鹿さに気付くなんて……俺はどんなに愚かなんだろう。