溺愛したい彼氏は別れても、溺愛をやめたくない。

 私が人とお付き合いするなんて今までは考えなかったけど……私なりに精一杯、庵先輩に好きを伝えよう。

 そう思い始めるのにも、時間はかからなかった。



「菜花?」

「……っ、はいっ?」

 庵先輩に声をかけられ、はっと我に返る。

 そ、そうだっ……今、登校中だった……。

 先輩と居られる時間は登下校時とお昼くらい。

 学年が違うから会う事も難しくて、少しだけ寂しい時もある。

 で、でも、私のわがままで先輩を困らせたくないっ。

「どうしたんですか?」

 続けざまにそう尋ね、先輩のほうを見て首を傾げる。

 すると先輩は、何故かおもむろにため息を吐いた。

「ううん、何もない……けど、外で可愛い事しないで。他の輩が菜花を見ちゃうから。」

「可愛い事……?」

 先輩、何を言ってるんだろう……?可愛い事なんか、してないのになぁ……。

 言葉の意図が分からず、はてなマークが頭に浮かんでくる。

 そんな私を見た先輩は、困ったように頭を撫でてきた。

「まぁ、まだ菜花は知らなくていいよ。菜花はそのままでいてね。」