「あぁ……あいつな、実は事故を起こしたらしく、会社の引き継ぎが極めて難しい状態なんだ。だから、庵に継いでもらおうと考えたんだ。」

 兄さん……本当、ドジなんだから。

 父さんの話を聞いて、兄さんに失礼だと思いながらも納得する。

 兄さんはよく怪我したり事故したりと、ドジと言うか馬鹿な人だ。

 それでいて全く学習しないから、父さんも手を焼いていた。

 今は、兄さんは会社を継ぐ為にこの家には住んでいない。

 だから初めて、兄さんが事故を起こした事を知った。

 ……でも悪いけど、継ぐ気はない。

「最初からそう言われてれば継ぐ気はあったけど、今はないよ。」

 菜花との時間が大事だし、そんな事で時間を費やしたくない。

 父さんには申し訳ないと思うけど、菜花以上に大切なものなんてないから。

 菜花は俺が見つけた……宝物。

 出会いは本当に、小さな出来事だった。

 俺が落としたハンカチを菜花が拾ってくれた。

 その時に、菜花に惚れたと言っても過言じゃない。

 俺は人様から見たら“イケメン”なんていう部類に入る人間らしい。