俺には、何よりも愛おしい彼女がいる。

 ……いや、いたって言ったほうが正しいか。

 過去形になった理由は、俺が振ったから。

「――俺たち、別れよう。」

 そう言って、俺は最低な別れ方をした。

『どうして、ですか……?』

『私のこと……やっぱり、嫌いになりましたか……?』

 か細い小さな声で、訴えてきた菜花。

 そんな菜花に、俺は今すぐにでも抱きしめてしまいたかった。

 違う。菜花のせいじゃない。

 そう言いたかった。

 でもそんな事をすれば、菜花を壊してしまいそうで怖かった。

 ……くそっ、こんなの拷問じゃないか。

 俺だって、菜花と別れたくなかった。

 だけど……こうせざるを得ない事態が、あった。



「庵、私の会社を継げ。」

 一週間ほど前、父さんから突然言われた。

 父さんはそこそこ大きな会社を経営していて、そこを継げという意味で告げられた。

 でもそこは、兄さんが継ぐはずじゃなかったっけ……。

「兄さんは? 会社は兄さんが、継ぐんじゃなかったの?」