溺愛したい彼氏は別れても、溺愛をやめたくない。

 香耶ちゃんには先輩のことは、言っていない。

 言ったら心配をかけちゃいそうだし、私一人で何とかなる事だから。

 もちろん、不安はある。怖いって言う気持ちも、ちょっとある。

 でも、先輩と向き合わなきゃいけない。

 走らない程度の速度で廊下を通り、裏庭に到着する。

 ……先輩っ!

 裏庭にもう来ていたらしい先輩は、いつもの笑顔を浮かべていなかった。

 深刻そうな表情で、何かに葛藤してそうな表情で、遠くを見ている。

 な、何だか、いつもの先輩じゃない……。

「せ、先輩……お久しぶりです。」

 思い切って声をかけると、先輩ははっと我に返ってこっちを向いてくれた。

 だけど、深刻そうな表情は変わらない。

 ……やっぱり、先輩らしくない気がする。

 そう思った矢先、先輩は私を見つめながらゆっくりと口を開いた。

「久しぶり。最近は連絡もできなくて、ごめんね。」

 構えていた私に聞こえたのは、いつもの優しい先輩の声。

 あれ……いつも通りだ。

 表情は少しだけ柔らかくなっただけだけど、それでもいつもの庵先輩でほっとする。