溺愛したい彼氏は別れても、溺愛をやめたくない。

「ただいま。」

 静かな家の中に入り、リビングに向かう。

 リビングには電気がついていて、ソファに“あの人”が座っていた。

「庵……言っただろう。恋人には近付くな、と。」

 俺の姿を視界に入れた第一声は、そんなものだった。

 その言葉を耳にした途端、呆れの感情が心の中に渦巻く。

 どうしてこの人は、こんなにも仕事人間なんだろうか。

「聞いた。だけど、もう我慢できなくなったんだ。父さんの言いなりに、もう大人しくなる気はないよ。」

 会社を継ぐのは良いけど、菜花のことは無視するから。

 菜花と会えなくなるのなら、会社も継がない。

 そんな気持ちを込めると目の前の人……父さんは大きくため息を吐いた。

「恋人がいると会社の勉学にも響く。どうして言う事が聞けない?」

「だから言っただろ。菜花と会えなくなるくらいなら、会社も継がない。」

 今までは言う事聞いてきたけど、俺も子供じゃない。

 父さんに力で勝てるくらいになったんだから、恐れる事なんてないはずだ。

 父さんの権力も、菜花に会えなくなる事を天秤にかければ何とも思わない。