だけど、私がここにいては……ダメだ。

 先輩には、彼女さんがいるんだから……。

「離して、ください……。」

 離れたくない。できる事なら、ずっと抱きしめていてほしい。

 ……なんて言えるはずもなく、口から出たのは拒否の言葉。

 こんなの、言いたくないのに……っ。

 先輩にもっと、抱きしめていてほしいのに……っ。

 そう思うのに、体は気持ちを受け入れてくれない。

 先輩の胸板を押しのけようとする腕に、自然と力が入る。

「嫌。離さない。」

「……っ、お願い、です……離してください……。」

 私なんか、抱きしめないで。

 私に、優しくしないで。

 ふっとまた、先輩と女の人の写真が脳裏に浮かんでくる。

 あの女の人が、先輩の隣にはふさわしい。

 だからもう、離してください……。

「せん、ぱいっ……彼女さん、いるんでしょう……っ?」

 か細く紡がれた言葉は、あっけなくその場に消える。

 震えていて、先輩に聞こえたかどうかさえ分からない。

 私、頑張って先輩を諦めようとしているんです。

 それなのにどうして、こんな事してくるんですか……?