溺愛したい彼氏は別れても、溺愛をやめたくない。

 菜花は極度に震えていて、大きな瞳からは綺麗な大粒の涙を零していた。

 その姿に、俺の中の何かが切れた。

 ……こいつ、か。菜花を怖い目に遭わせたのは。

 目の前には、黒いオーラをこれでもかと纏っている男がいる。

「せん、ぱい……?」

 菜花は理解できていないのか、瞬きをして俺のほうを見ている。

 ……ヤバい、可愛すぎる。

 こんな状況でそう思うのは不謹慎だけど、思わずにはいられなかった。

 すると、目の前の男が声を発した。

「篠碕先輩、今更彼氏面しないでください。菜花の彼氏は、俺です。」

 何も疑っていないような様子の男に、笑い飛ばしてしまいたくなる。

 ……誰が、菜花の彼氏だって?

「違うよ。菜花には今は彼氏はいない。君は所詮、仮だよ。」

「……っ。」

 俺の淡々とした言葉に、男は下唇を悔しそうに噛み締めた。

 あーあ、男の嫉妬は醜いよ……なんて、俺が言えた事じゃないか。

 心の中で自嘲し、すぐに菜花と男を離したくて菜花を連れて急いで路地を出る。

 とりあえず……俺の家に連れて行こう。