溺愛したい彼氏は別れても、溺愛をやめたくない。

 菜花はきっと、もう俺のこと嫌いになっている。

 当たり前だ。今更あがいても、無駄なんだ。

 分かっているのに……自分から手放したのに、どうしても手を伸ばしてしまう。

 ……こうなればもう、我慢が利かなくなる。



 放課後になり、もう一度電話をかける。

 長いコール音の後聞こえたのは、やっぱり切れた機械音だけ。

 菜花は……俺のことを忘れたいのかもしれない。

 俺から電話するのは図々しい。そんなの、自分が分かっている。

 それでも……違うって、否定してほしかった。

 俺は、菜花しかいらないから……っ。

 苦しい苦い気持ちを抱きながら、帰路につこうと学校を出る。

 その時不意に、兄さんの言葉が脳裏に浮かんできた。

『なのちゃん手放して、後悔だけはしないでね。』

 何かを悟ったような兄さんの言葉が、反芻して離れない。

 ……今、どうして兄さんの言葉が浮かんだんだろう。

 自分でも疑問に思うほど自然で、おもむろに頭の中に出てきた言葉。

 靄がかかっているような気持ちに違和感を抱きながら、とりあえず帰路につく。