「大好きだよ、菜花。」

 佑樹君からそう言われ、涙がかさを増す。

 もう……諦めるしか、ない?

 ……そう考え、下唇を噛み締めた時だった。

「お前、菜花に何やってんの?」

 ……っ、えっ?

 路地の入口から声が聞こえて、佑樹君の動きが止まる。

 そして私は、その声の主に腕を引かれて抱きしめられた。

「せん、ぱい……?」

 私を抱きしめたのは……大好きでやまない、庵先輩。

 久しぶりの温かい体温に包まれて、涙が一瞬にして止まる。

 それと同時のタイミングで、佑樹君が声を上げた。

「篠碕先輩、今更彼氏面しないでください。菜花の彼氏は、俺です。」

「違うよ。菜花には今は彼氏はいない。君は所詮、仮だよ。」

「……っ。」

 先輩の言葉に、佑樹君はぐっと言葉に詰まった。

 先輩はそう佑樹君に言った後、私の腕を引いて路地を出た。

 強い力、でもどことなく優しい力で引っ張られ、大人しくする。

 久しぶりに触れる、先輩。

 大きくて頼りがいがあって、優しくて大好きな先輩。