溺愛したい彼氏は別れても、溺愛をやめたくない。

 一か月くらい前まで、当たり前のように先輩とご飯を食べていた場所。

 そんなところに来て、懐かしくならないはずもなく……涙腺が緩みそうになる。

 ダメ……先輩への気持ちは、消さなきゃ。

 自分自身に言い聞かせるように、心の中で反芻する。

 中庭のベンチに腰を下ろし、お弁当箱を開く。

 それと同時に、香耶ちゃんがこう言った。

「昨日メールで話は聞いてたけど……マジだったなんて思わなかったよ。菜花はあんなに篠碕先輩好きだったから、余計にね。しかも仮とはいえ相手はあの市ヶ谷! 何で付き合い始めたの?」

「だ、だから昨日の通りだよ……。」

 私が悩んでた時に市ヶ谷君に提案されて、成り行きで今の形になった。

 何も嘘は言ってないし、結構分かりやすく説明したと思うんだけど……。

「そういう事じゃなくて……質問を変えるよ。菜花は市ヶ谷と仮交際するの、本当に良かったの?」

 真剣な表情で、それでも不思議そうに尋ねてくる香耶ちゃん。

 一瞬だけ言葉に詰まったものの、私は静かに頷いた。