溺愛したい彼氏は別れても、溺愛をやめたくない。

「じゃ、じゃあ……佑樹、君?」

 恐る恐る、市ヶ谷君の下の名前を呼んでみる。

 すると市ヶ谷君は満足そうに、ふっと微笑んだ。

「うん。じゃあ俺も、菜花って呼んでいい?」

 ――ズキッ

 ……嫌。

 市ヶ谷く……じゃなくて、佑樹君に名前を呼ばれた時だった。

 心臓が妙に嫌な音を立てて鳴り、嫌悪感を抱いた気持ちに苛まれる。

 どうして、だろう……。

 佑樹君に呼び捨てで呼ばれた途端、先輩のことが頭に浮かんだ。

 私を呼び捨てで呼ぶのは男の人では先輩だけで、特別だと思えていた。

 だからかな。佑樹君に呼ばれるのを、嫌だと拒否してしまいそうになるのは。

 ……だけどそんな事、言えるはずがない。

 ここまで私のことを考えてくれているんだから、わがままなんて言えない。

 それに……先輩離れする、第一歩だよね。

 先輩に執着するのは、辞めたんだから。

「う、うん。」

 若干震えた声でそう言い、無理やり口角を上げて笑顔を見せる。

 佑樹君も同じように笑顔を見せてくれ、少しだけ嫌な気持ちが紛れた気がした。