市ヶ谷君は前に、私に告白してくれた。

 だけど私はどうしても、市ヶ谷君を恋愛対象には見られない。

 ずっと友達として接してきたからっていう理由も、もちろんある。

 けどそれ以上に……庵先輩以外に恋心が抱けないという理由が大きかった。

 市ヶ谷君はかっこいいし、先輩の次にイケメンさんだとは思う。

 優しいし物腰も柔らかくて、はきはきしている人だって知っている。

 で、でも先輩のほうが何倍もかっこいいもん……!

 先輩は私の短所も受け止めてくれて、いつでも甘くて優しくて……。

 ……って、先輩のこと諦めるって決めたのに、どうして思い出してるの!

 馬鹿さ加減に嫌気が差して、こつんと自分の頭を叩いた。

 私の馬鹿っ……!

 私がそう思ってまた膨れている間にも、市ヶ谷君は言葉を続ける。

「大丈夫だよ。確かに俺は藤乃さんのことが好きでどうしようもないけど……それくらいなら何とも思わないよ。むしろ藤乃さんの手伝いができると思えて光栄だし。ふりだけ……仮で良いから、試しに付き合ってみないかな?」