「……そういう事か。藤乃さんはそれで、良かったの?」

「うん。いつまでも先輩に執着しててもダメだし、先輩もそっちのほうが良いと思って……頑張って忘れたいんだ。」

 諦めるにはまず、忘れるのが手っ取り早いと思う。

 だけど、肝心の忘れ方が思いつかない。

 こんな事今までなかったし、こうなるなんて思ってなかったから。

 市ヶ谷君に概要を全て話して、言葉を静かに待つ。

 私の返答に納得した様子の市ヶ谷君は、思いついたように手を打った。

「そうだ。なら、これならどうかな。」

「これ……?」

 何だろう……?

 首を傾げて、市ヶ谷君の言葉の続きを聞く。

 すると市ヶ谷君はすんなりと、驚くべき事を口にした。

「俺と仮で良いから、付き合ってほしい。」

 …………へ?

「え、ええっ……!?」

 ど、どういう、事……!?

 仮に付き合って、ほしい……?

 全くと言っていいほど意味が分からなくて、ぽかんと口を開ける。

 言葉の意味はかろうじて分かるけど、ただただ理解が追い付かない。