溺愛したい彼氏は別れても、溺愛をやめたくない。

 そう思うとたくさんの涙が溢れてきて、止まらなくなる。

 早く、ここから去らなきゃ……っ。

 先輩を瞳に映す事が辛すぎて、「早く帰らなきゃ。」という焦りが襲ってくる。

 けれど、体は固まって言う事を聞いてはくれない。

 足が完全にすくみ、体全体が震える。

 先輩と女の人は数メートル先にいて、見ている事がバレるかもしれない。

 楽しそうに口角を上げている庵先輩を見たくなくて、視線を下に向ける。

「……行こう。」

 その瞬間、市ヶ谷君の柔らかい声色と共に腕を掴まれた。

 市ヶ谷君の手から温かい体温が伝わってきて、抵抗する間もなく足が動く。

「……よし、ここら辺なら良いかな。」

 市ヶ谷君に連れられるまま、近くの公園のベンチに座った。

 私が座った隣に市ヶ谷君も腰を下ろし、さっきみたいな優しい声で私に話しかけてくれる。

「藤乃さん……大丈夫、じゃないよね……。」

 悲しそうな声が耳に届いて、慌てて大丈夫だと取り繕おうと口角を無理にあげる。

 市ヶ谷君に、心配かけちゃダメだ……。