……よし、準備できた。

 姿見の前でくるっと一回転して、自分の姿を確認する。

 鏡には制服を着た何の変哲もない、私が映っている。

 でも私は、毎日この習慣をしている。

 ……そして、大好きな人に挨拶する。

「庵先輩、おはようございますっ!」



 私の名前は藤乃菜花(ふじのなのか)。普通の高校一年生。

「おはよう、菜花は今日も元気だね。」

 そう言ってクスクスと上品に、私の隣で笑っているのは一つ上の篠碕庵(しのさきいおり)先輩。

 私と庵先輩は、今年になってから知り合った。

 なのにどうして、私の家の前にいるのかというと……。

「菜花、今日も可愛い。」

「そ、外でそんな事言わないでくださいっ……!」

 ……庵先輩は、私の彼氏だからだ。

 事の発端は、一か月前に遡る。



「あの……これ、落としましたよ。」

 私が廊下を歩いている時、庵先輩のポケットからハンカチが落ちた。

 その時はまだ、私は庵先輩の存在すら知らなかった。

 慌ててハンカチを拾い、声をかける。