その2
剣崎


相馬豹一という人は、すべての意味で感性の天才だと思うし、信じて疑わない

そのひとつの才能が、様々な状況を取り込む鋭い嗅覚だ

そしてそれらを活かす発想が、これまた常人のそれをはるかに超えた突飛さを持ちえていて、まあ、俺達組織の中のモンはいつもそれに驚かされているという訳だが…(苦笑)

...


今回、このタイミングで相和会を動かすことを会長が決めた理由というか、ここに至った然るべき要因に結びついた点として、まずもっては、ここ都県境のガキどもを取り囲んでいた状況の変化があるんだろう

これはこの俺もある程度は周知していたことなのだが、もともと相和会が仕切るテリトリーのお膝元である都県境は、やんちゃなガキどもがいくつもの小規模グループが乱立していて、それらの多くは在○系だった

そしてそのすべてを黒原盛弘というやはり在○の男がこれまでずっと統括していたのだが、今年、急逝してその均衡は見事に崩れた

この状況をいち早く察知し、さっそく奴らに関与していったのが星流会の会長、諸星だった


...


あの人も同じ同胞ってことで、その辺りを上手くコーディネートできたんだろうが、その成果は割とはっきり出たよ

やくざの威光に色気も持った一部のガキどもが諸星に尻尾を振って寄っていったんだ

諸星はそいつらを陰でバックアップし、旧来のやくざかぶれのハンパ者とが合体させ、愚連隊的な新たなかたまりを作った

しかし、その実体は星流会というれっきとしたやくざの二次組織に近かったと見てる

最近の諸星は、このところ世の中の景気がどんと上向いてきてる傾向を見て取り、将来的にはガキどもを介したシノギを搾取できる新しい市場を作り上げる青写真を描き始めたようで、その辺りを相馬会長は敏感に読み込んでいたかもな

...


まあ以前からずっと、諸星のことは性懲りもなくこっちにちょっかいを出して来ても、相馬さん、いつも生かさず殺さずを通してきたから…

だが、我々には二通りの見方が成立していたんだ

相馬会長にとっては、ヤツなど消すまでもない小物とバカにしてたからだという意見と、ヤツが相和会への挑発行為を継続させれば、返ってそれは後ろに控える関東の侵攻行為を小出しに留める、言わばこっちとしては敵さんの程よいガス抜き効果となり得、むしろ好都合だという点を会長が見切ってるからだという二側面からの見解だった

はは…、いわゆる相馬豹一のお家芸、ダブルミーニングなんだが、最近になって俺は、会長には諸星を生かしておくもう一つの狙いがあるんじゃないかと感じるようになってきた

それは、ヤツの従来から描くガキ市場の確立というビジョン…

この構想に相馬さんは、少なくとも興味を抱いていたのではないかと…

...


もっとも、この諸星ビジョンは、それこそちょっと前までは在○の考えつきそうな軽薄でしょぼいビジネスだと、関東内部から嘲笑を浴びていたのだが、今じゃ、やはり日本国内の景気が活況ということで、関西も含め、ガキを利用して二次組織化するプランは陽の目を見てる状況もある

会長だって、先見の明はハンパない訳だし、その目の付け所は以前から頭に入っていたとしても不思議ではないさ

いや、それどころか、あの人はもっと先に目をやって他の人間が思いもつかない仰天の発想を温めている可能性だってある

そうならばだ…

今回、倉橋に念入りにというミッションは、それなりの深意を孕んでるな…

よし、いっそのこと、この俺が手の込んだ”絵”を描いてやる

ハデにぶちかまして、星流会のキモを抜かしてみるさ

そのリアクションを受けて、相馬会長がどんな反応を示すか…

そんなことに考え至り、俺は心の中でニヤつくようだったわ