その3


マユミのカレ…?、のホスト君はマコトという名だった。
彼女がマコトにぞっこんとなったのは、言わば受身…。


同僚に誘われ、興味本位で出向いたホストクラブで覚ざめ、極論、”餌食”にされた。
気が付けば、甘い言葉と夜のテクニックで骨ヌキにされ、結果的に金をむしり取とられる…、いわゆる貢ぎ娘となった。
行きついた先は明快そのもので、”オレの体は欲しいなら、対価をよこせ”と…。


”その手”には極めて純&どんクサな彼女は、”金平糖”のようなどってりと甘い踏み絵コトバを撥ね退けられず、文字通りズルズルと現状から抜け出せないでいたのだ。


以来、 何度決別しようかと思い立ったが…。
その都度、エッチ後の優しいコトバと態度にキュンとなり、”その決心は”はすぐにしぼんでしまうのだった。

そう…、マコトはベッドの上でマユミを抱いた後、吉原のように行為後のお掃除をしてくれていたのだが、その後ろ姿は…、”今の目の前”とカタチは一緒ではあったが、理屈は抜きで吉原の”それ”は、マユミの中の何かを弾いたようで…。


少なくとも、こんな掃除の行き届かない不潔な公衆便所でなら、マコトはそのまんまでいいやとなることは目に見えていたし…。
でも、吉原はそうではなかったと…。

***

吉原が”個室”から出てきたのは約5分後だった…。


「あのう…、吉原さん…」


「ああ、マユミさん。…どうした?まだいたのか…」


「…ちょっと、話いいですか?」


「はあ…?」


吉原は洗った手をハンカチで拭いながら、ややあっけ気味の表情だった。


***


その後、二人は遊歩道のフェンスパイプに並んで腰を下ろし、しばし”ヘンな会話”となったのだが…。


「うーん。それは、おお、わかったって即答できないな。…そもそも、なんで、惚れてるカレに"そんなこと"をって気持ちはあるし…」


「もう、踏ん切りつけたいんです、アイツとは…!でも…」


「ああ、"そういうこと"か。…いいか、マユミさん。なら、オレの答えは簡単だ。以前から遠巻きに見て好みだったのにあんたには、今日、唐突なのに至極の思いをさせてもらった。約束は全うしてくれたんだし、そのあんたがたっての頼みってんなら、そのマコトかってオトコの件、別に可だぜ」


「ホントですか⁉」


「ああ…。でも、イイ男なんだろ?後悔しないかい…?」


「必死で振り切ります‼やります、私…」


「…」


吉原はマユミの目をじっと見つめていた。
それは約20秒ほど‥、じっと…。



***


「…あんたのその目、ちょっと弱さを感じるな。他人にも厳しくというか、もっと毅然とできなきゃなあ…」


「…」


この時のマユミには、その意味するところがすぐには分からなかった…。


「まあ、いいわ。そんな目にも、こっちはそそられた訳だし‥。…そいつ、オレとはまた違った意味でロクでもない輩なのかもな。まあ、その気で面とむかって最大限集中できれば、過去は手に取るようにわかる。あんたが今”証言”した事実だけでも掴みはとれるが、その手の男なら他のネタも満載だろう。後は、ねじ伏せるから安心しな。…そやつとは別れさせてやるよ、その場でな(薄笑≒但し、ややさわやかげ?)」


「吉原さん…‼」


マユミは文句なく感激していた…。