マユミと吉原がココまでたどり着いた原点…。
ベッドに横たわった二人は奇妙ながら、この時、”その時”をそれぞれの胸中に抱いていた。

***

「…きれいごと抜きのあなたに惚れたわ!あなたと一緒に生きて行きたいのよ、コウジさん…」


「ど腐れされなんだぞ、死ぬまでオレは…。ホントにホントに、いいのかよ、マユミ…」


「いいわ!私も所詮、ど腐れよ!…あんなホストに入れ込んでる時点でクソよ、私も…」


この日から1年半後…、二人は夫婦になったのだ。
周囲の承認も得て…。


そして、数年後には”ひと粒種”の長男が生まれ、傍から見ればフツーの人並みな生活を得た、幸せな家庭に映っていた…。
その実感も吉原夫妻にはあった。


マユミは至福の人生を得た…。
と、言えた…。


***


さらにその数年間…、吉原家はつつましいながらも、明るい日々が続いていた…。
その年の春には、一人息子の雄太が小学校に進学し、毎日元気に集団登校で学校に通っていた…。
いじめや不登校の兆候もなく…。


そして夏休みを間近かに控えた、ある月曜日の夜が”この時”だった…。