愛里紗は顔が真っ青のままカタカタと身体を震わせていると、心配した友達が次々に周りを囲む。
「えっ!あーりん?」
「なになに?そんなに大きな悲鳴を上げてどうしたの?」
次第に親指付近から血が滲み出ているのが遠目で見ても分かるほど、赤く染まって広がり始めた。
怪我の様子を目の当たりにした友達は、事態の深刻さに気付く。
「大変!手を怪我してるじゃん。早く保健室に…」
友達が口元を押さえて悲鳴のように叫んだ瞬間。
友達の合間をくぐり抜けて現れた翔は、ポケットからハンカチを取り出して、血が滲み出ている傷口に当てた。
「大丈夫?落ち着いて。いま保健室に連れて行くから」
「…うん」
翔は怪我をした反対側の右手を握りしめて愛里紗を保健室に連れて行った。
二人が保健室に到着すると、養護教諭は応急処置を施す。
幸いにも傷口は浅く済んだ。
隣で見守っていた翔は安心したように眉尻を下げた。
怪我した瞬間、一番最初に駆けつけてくれた彼。
そういった優しさだって私にはジンと心に染み渡るくらいに嬉しく感じる。
「谷崎くん…、ありがとう」
「怪我が大した事なくて良かった」
最初は小さかった恋の灯火は、日を追うごとに温かく。
そして深く…。
心の成長と共に、勢いを増してメラメラと燃え上がらせていく。
処置を終えた私が教室に戻ると、ぶつかってきた男子が一番最初に目の前に現れて、申し訳なさそうに頭を下げて「ごめんな」と謝ってきた。
後で聞くと、ノグはぶつかった男子に雷を落として言い聞かせたとか。
勿論、ぶつかって来た男子に悪気はなかったし、直ぐに謝ってくれたから今回の件は目をつぶる事に。
怪我をして痛い思いはしたけど、彼の優しさに触れた貴重な一日になった。