ーーとある日の夕方。

神社の池の前で一人浮かない表情をしてしゃがんでいる翔の隣におじいさんはやって来た。



「最近、愛里紗ちゃんはめっきり遊びに来なくなったのぅ」



翔は愛里紗の話題に触れて欲しくなくて、聞こえないフリをして池の中を見つめた。
池の中の鯉は翔の心情とは対照的で、穏やかにスイスイと泳いでいる。

おじいさんは翔の気持ちを察しながらも、返事を待つ事なく話を続けた。



「ほぼ毎日のようにここに来ていたから、パッタリ来なくなると寂しいのぉ」

「……」


「愛里紗ちゃんは、君以外友達がいないのかい?」



翔はおじいさんの言葉に耳がピクリと反応する。



江東は俺以外友達がいない?
そんな訳ない。

学校で見てる限りでは、いつも友達に囲まれている。
おじいさんは江東の事をよく知らないから、勝手にそう思ってるのだろう。



翔はおじいさんの一方的な見解にムッとして言い返そうとしたが、おじいさんは隙を与えず話を続けた。



「それともお友達の誘いを断ってまで君に会いに来ていたのかな。神社は用がない限り小学生が来るような場所じゃないからのぉ」

「用が…ない限り……?」


「……少しばかし余計な事を言ったかもしれん」



おじいさんは気になる言葉を言い残してゆっくり池から離れて砂利を踏みしめながら本殿へと戻って行った。



俺は自分の事で精一杯だった。
だから、毎日神社に遊びに来ていた江東の気持ちまで考えが行き届かなかった。


彼女が毎日神社へ来ていた理由。
それは、単に池の鯉に餌やりをしに来ていた訳じゃない。
神社に用があった訳でもない。

きっと、俺に会いに来てくれていたんだ。