ーー今日も帰宅後に、神社で谷崎くんと一緒に鯉の餌やりをしていた。
恋に気付いてしまってから、普段何気なく過ごしているごく当たり前の事が幸せに感じる。
彼の笑顔を一番近くで見つめる事が私にとって特別であり贅沢な時間に。
幸せ………。
このまま時間が止まってしまえばいいのに。
神社で特別に流れ行く時間だけが、愛里紗の恋心を育んでいた。
ところが、愛里紗と翔が肩を並べながら、池に向かって赤ちゃん鯉の名前を一緒に考えていると…。
「あ!谷崎と江東じゃん」
たまたま神社の近くを通りがかった同じクラスの伊藤が、愛里紗達二人に気付いて鳥居の向こうからやって来た。
近所とはいえ、神社に通い始めるようになってから、同じクラスの人に遭遇する事は一度も無かった。
だからちょっと油断していた。
神社で会っている事は二人だけの秘密と決めていただけに、二人は焦りの色を見せる。
すると、伊藤は二人を舐め回すかのようにマジマジと見てニヤケた。
「お前ら付き合ってんの?」
「ちげーよ。そんなんじゃねーし」
翔は立ち上がってすかさず反論するが、伊藤は疑いの眼差しを止めない。
「ふぅーん。なるほどね〜」
伊藤はニヤニヤしながら嫌味ったらしくそう言うと、多くは語らぬまま来た道へと戻って行った。
後ろ姿を目で追う翔は、不安気な表情を覗かせている。