「九年分の想い、ちゃんと届いてるよ。だって、私も同じ気持ちだったから」

「愛里紗……」



愛里紗はそう言うと、カバンの上に置いている恋日記を手に取って翔の前に両手で差し出した。



この恋日記は彼が長年書き続けていてくれた手紙の返信。

でも、書き始めたのは手紙を受け取るよりもずっと前。
つまり、自分の想いを一方的に書き綴ったもの。

小学生の頃に彼から誕生日プレゼントでもらった鉛筆で一日一日の心境を書いた。



「実は三年前に受け取った手紙を全部読んだの。この日記は手紙じゃないけど、翔くんからの手紙の内容を想定した返事が全部書いてあるよ」



…と、翔が愛里紗から恋日記を受け取ろうとしていた時。
恋日記を持つ右中指に絡まっているピンクのイルカのストラップが、太陽の光でキラリと輝いた。
翔はすかさず気付く。



「それっ……」

「…うん?」


「あ、……いや。これはいま読んでもいいの?」

「恥ずかしいけど読んでいいよ」



彼は日記を受け取ると、最初のページを開いて内容を目で追った。



恋日記は涙で腫れた目で翔くんを思い描きながら書いたもの。
私の気持ちは最後のページまでギッシリと埋め尽くしてある。

彼は私が書いた一字一字を逃さぬように慎重にページをめくる。


空白のページを残さないくらい沢山書き綴った恋日記を隣で静かに目で追う彼を愛おしく見つめた。