理玖は家具の基礎知識を一から学ぶ為に、卒業と同時にイギリスへ旅立った。

日本を発ったと知った理由は、高校を卒業した直後にイギリスから一通の絵ハガキが届いたから。



アンティークのブラウンレザーの二人がけソファの写真が載っているハガキに、たった一言だけメッセージが書き添えられていた。



《毎日笑ってる?(^^)》



そこには、たった一行の絵文字付きのメッセージだったけど……。
文字の先には、一瞬理玖の笑顔が見えたような気がした。



だから私も駅ビルの雑貨屋さんで購入した外国人の女の子の笑顔の写真が載っているハガキで、理玖を真似てひと言だけ書いて返信した。



《毎日いっぱい笑ってるよ!》



ハガキをポストに投函してから二年経った今も、その後の返事は届いていない。


もし、理玖は私が笑ってないと知ったら、留学先のイギリスからすっ飛んで戻って来そうだけど…。
今日まで返事が届かないという事は、きっと私の笑顔に安心しているという証拠だろう。




私達は近所に住んでいたけど、別れたあの日以来、街で一度もすれ違わなかった。

留学するまで一年もあったのに、案外会えないもの。
中学を卒業してからも地元で会わなかったから、偶然ってそんな簡単に訪れないんだなぁ…と、思ったりして。

だから、高二の時に駅で再会した事はかなり珍しかったのかもしれない。



理玖がイギリスに何年留学して、いつ頃日本に帰国するかは知らない。
私達は四カ月間も恋人だったのに、いざ離れてみると知らない事がたくさんあった。



でも、彼は影の努力家だから、きっと今頃海の向こう側で頑張ってるだろう。