ーーあれは、卒業式を一ヶ月後に控えた、高校三年生のある日。
三年生の教室前の廊下で、木村が他の女子と仲良く話してる現場をたまたま咲が目撃。
まるで浮気現場を押さえてしまったかのようにヤキモチを妬いて、顔を真っ赤にしてカンカンに怒ってしまった。
その当時、二人はまだ付き合っていない。
私はたまたまその場に居合わせていたけど、咲があんなに怒ってる姿を今まで一度も見た事がなかったから正直驚いた。
木村は咲の異変に気付いて目の前で走り去っていく咲の後を追ったけど、咲は木村の制止を振り切っておっかない顔をしながらその場から立ち去った。
その後、木村とは一週間も口を利かなかった。
そんなに長々とスネてしまうくらいなら、早くいい返事をしてあげれば良かったのに…、なぁんて一度も口には出さなかったけど思った。
咲は普段から追いかけられる立場だったから、急に木村の目が自分に向かなくなった事が気に食わなかったのかもしれない。
……なんか、その時の咲は恋する乙女だった。