失恋の傷が少し癒えて桜の花びらが青々と生い茂った新芽に衣替えした頃。

暫く貝のように固く口を閉じていた私は、理玖と別れた事実を咲に伝えた。
あの時の仰天していた目は三年経った今でも忘れられない。


咲は一番近くで恋を応援してくれていただけに、残念そうな様子を伺わせていた。





あの頃は大事なモノを二つ同時に失ったけど、手元には一番大事なモノが一つ残った。


それは、咲の笑顔。


高校に入学してからの二年間、一番近くで守り抜いてきた、世界にたった一つだけの大切な笑顔。
あの当時の私は、他の何よりも一番身近なモノが一番の宝物だった。



一番近くの笑顔を守り抜いた時。
好きな人と一緒になる事だけが幸せじゃない事を知った。


きっと、周りの人間に祝福してもらえるからこそ、自身の恋が幸せだと感じるのだろう。


あの頃の恋は不合格だった。



両親の離婚と失恋。
それに同級生に悪口を言われて、ボロボロに傷付いて苦しんでいた咲の笑顔を守っていく事が出来るのは自分しかいなかった。

だから、咲を傍で支えてくれる相手にバトンタッチが出来るその日まで、私が一番近くで見守ってあげたいと思った。