いまこの右手に触れたら……。
もう二度と触れる事がない。
理玖とはもう二度と会えない。
二度と…。
二度と笑い合う出来ない。
本当は嫌だ。
サヨナラなんてしたくないよ。
でも、もう振り返らない。
理玖に甘え続けてはいられない。
お互い前を向いて新しい人生を生きて行こう。
私にはこれ以上笑顔を奪う権利はないから、今日で最後にしないといけない。
私だけに向けられた屈託のない笑顔も。
笑顔を生み出す為の小さな意地悪も。
私が奪われぬようにとライバルの翔くんに向けた牙も。
唇で温もりが一つに繋がったそのひと時も。
いまこの瞬間にお別れしなければならない。
だから、ベンチから立ち上がって最後に重ね合わせた手をギュッと握り返した。
今まで支えてくれてありがとう。
宝物のように大切にしてくれてありがとう。
中学生だったあの頃からずっと一途に愛してくれてありがとう。
BYE BYE 理玖
大好きだったよ。
スッと指先をすり抜けてから走り去るように公園を出て行った愛里紗は、すぐ傍にある駐輪場で足を止めて、その場にしゃがんで泣き崩れた。
「はあっ……はあっ……、っ……はあっ……っぐっ……っうああぁ……ん……」
乱れた呼吸はポンプのように次々と新しい涙を生み出していく。
「……理玖…ごめんね……本当に…ごめっ………ん」
理玖の手の温もりが消えた頃、もう二度と理玖に触れる事のない手のひらは次々溢れる涙を拭う事で精一杯に。
喉を通り過ぎていく涙の味は渋い苦みを感じている。