理玖は、ずっとずっとそうだった。


自分の事なんて全て後回し。
辛い時でさえ、自分の気持ちを無視してバカみたいに私の心配ばかりしていた。


バカだよ、理玖。
最後まで格好つけちゃって。

だから、関係を壊すのが怖かったんだよ。



「……っ」



理玖の優しさに触れ続けていたら溢れ出る涙が止まらなかった。
別れの言葉を口にしても、最後の最後まで別れる実感が湧かない。



明日何事も無かったかのように何食わぬ顔で会おうと言えば、理玖は今日の話し合いがまるで無かったようにまた会ってくれそうな気がしてならない。



でも、世の中そこまで甘くない。
明日からは理玖に会えない。
独り占めしてた笑顔は、別れ言葉と共に見れなくなった。

私を精一杯愛してくれた理玖は今日で最後。
もう二度と会えなくなる。



「ごめん……。ごめんね、理玖…」

「いーよ。愛里紗の『ごめん』はもう沢山聞いたよ。…俺の方こそ今までありがとう」



理玖は公園のベンチを立つと、愛里紗の前に立って右手を差し出した。



ーーそれは、最後のお別れを意味している。



今の私達はお互いサヨナラが言えない。
だから、理玖はサヨナラの代わりに右手を出した。

きっと、右手に託された温もりが私達二人のゴールなんだろう。