理玖は愛里紗の感情が露わになった姿を見ると、袖口から柔軟剤の香りを漂わせながら、愛里紗の髪を優しく撫でた。
「俺なら大丈夫。……だから、この話はやめて家に帰ろう。時間も遅いし話を続けるのは辛いだろ」
ビショビショに頬を濡らした顔をゆっくり上げると、理玖は穏やかで優しい顔をしていた。
だから、余計苦しかった。
ーーだが、次の瞬間。
理玖の左目から一粒の涙がツーっと頬を伝う。
それは、隠し通していた感情が明らかになった瞬間だった。
愛里紗は理玖の涙が目に焼き付くと、優しい仮面の奥に隠された感情がギュッと凝縮されてるように思えて更に胸が締め付けられた。
「……俺、日本からいなくなちゃうし、もうお前を守れそうにないから。…俺の方こそ、これ以上守ってあげられなくてごめんな」
「理玖…。ごめっ……」
「ほら、泣くなって。俺はお前の笑顔が好きだから。自分のせいで笑顔が見れなくなるのは嫌だし」
理玖はそう言うと、再び口元を軽く緩ませた。