バレンタイン前日のあの日。
英会話教室の入るビルの前で、私を背中から抱きしめていた翔くんの身体を引き離して馬乗りになって胸ぐらを掴んで今にも殴りかかりそうになるくらいに、心がズタズタに傷付いていたのに…。
傷だらけのハートが今にも崩れ去りそうだったと知っていたクセに、私は宥めるどころかキスを拒んで更にハートを傷付けた。
そんなご都合主義の私になんてもう優しくしなくてもいいのに。
こんな別れ間際でさえ優しい言葉をかけたら、またいつもみたいに甘えたくなっちゃうじゃん。
理玖はいつも逃げ出す事ばかり考えていた私より、ずっとずっと強い。
少しは我を忘れるくらい怒ったっていいのに。
『別れたくない』とか駄々をこねたり、『ふざけんな』とか罵倒を浴びせてもいいのに。
必死に別れを食い止めてもおかしくないのに。
私を非難すらしないから、最後のこの瞬間でさえ深い愛情を感じている。