「……俺、ここ数日間ずっと考えてた。交際は順調だったのに、あいつに会った途端、俺達の関係は冷え込んでいく一方だったから、もうダメなんじゃないかなって。あいつはお前にとって忘れられない人だったんだろ」

「…うん。忘れられない人だった」



「あいつさ、俺が恋人だって知ってんのに、俺と変わらないくらいお前を大事に思ってるから参ったよ。だから、あいつが現れてからずっと不安だった。いつかあいつに奪われちゃうんじゃないかと思って、心に爆弾を抱えながら過ごしていたよ。


一人の時間が増えてから過去を振り返ってみた。俺はお前と再会してからこの八ヶ月間、一日一日に幸せを噛み締めながら自分なりに頑張ってきた」

「んっ……。理玖の気持ちはちゃんと伝わっていたよ。いつもストレートに気持ちを伝えてくれたから」



少し照れ臭くなった私達は、久しぶりにお互い小さな笑顔を向け合った。
翔くんと再会しなければ、きっとこの笑顔を隣で見続けていたのかもしれない。



でも、今日は大好きだったエクボが見えない。
だから、理玖のエクボにはもう二度と会えないだろう。

最近、エクボを最後に見たのはいつだったかも思い出せないくらい、私達は笑顔の回数が減っていた。



「中学生の頃のように後悔したくなかったから、お前と偶然に再会してからは毎日が幸せだった。特に交際にイエスの返事をしてくれた日は、俺にとって忘れられないくらい幸せだったよ」

「うん」


「お前も俺との恋愛に努力していてくれたんだよな。向き合い続けてくれたのは、ちゃんと伝わってきたから」

「…うん」


「告白の返事や、お前からのキス。バレンタインの時のマフィンや、俺が誕生日の時にあげたネックレスを大事にしてくれていて必死に探してくれてる姿とか、これとないくらいに目に焼き付いて幸せだった。……だから、悔いはないよ」

「理玖……」



理玖は寂しそうに微笑むと、私の頭をポンポンと軽く二回叩いた。



ーーそれが、四ヶ月間真っしぐらに愛し続けていてくれた私への最後の言葉だった。