理玖の帰りを待ち始めてから、およそ15分が過ぎた頃。
ビル内の二人くらいしか通れない狭い階段から人がまだらに降りて来た。


人の流れにすかさず反応すると、理玖を見失わないように一人一人の顔を撫でるような目線を向けた。



すると、人混みの中の理玖を発見。
十日ぶりに姿を見たけど、視線を落としたままで覇気がない。


私は彼を傷付けるどころか、お日様のような温かい笑顔まで奪っていた。





明日はホワイトデー。

今年はマフィンを手作りして渡したから、理玖はきっと明日の為に何かを考えているはず。




まだ中学生だったあの頃。
理玖はホワイトデーのお返しのお菓子と共に、愛の言葉を書き綴った手紙を添えてくれた。

その手紙があまりにも理玖らしくて、素直な気持ちがそのまま字に表れていて、受け取った時は何だか可笑しくなってフいた。



理玖はあの当時からいっぱい愛してくれているのに、私の気持ちはいつも徐行運転だった。

待っている間は色んな想いが駆け巡っていたけど、今日ここに来た理由を思い返して後ろ向きになっていた気持ちを奮い立たせた。



私は翔くんと別れてから声が枯れるくらい泣いた後、理玖、咲、……そして私の三人が幸せになる方法を探した。

小学生の頃に翔くんと別れた時は、自分でもびっくりするくらい長く引きずった。
でも、引きずり続けた後に訪れたのは幸せな未来じゃない。


だから、一つの決断をした。
私が大切にしているみんなが幸せになる方法。
笑顔溢れる毎日が訪れるように、私は一歩前に進むことを決めた。