ーー桜の蕾が膨らみ始めて、いよいよピンク一色の開花を間近に控えたこの季節。


朝晩の寒暖の差が開き、春風も徐々に暖かくなりいよいよ本格的な春の香りに包まれ始めた。




今日は三月十三日。

腕時計の針は19時を指している。
今日は理玖に大事な話をしようと思って、英会話教室のビルの前で帰りを待つ事にした。



目に映るのは、それぞれの目的地に向かう不揃いな足。
耳に聞こえるのは、バスターミナルから聞こえる車の音や多数の足音や話し声。

私は街の景色に包まれながら一人その場に佇んでいる。



残念ながら、理玖の英会話教室が何時に終わるかわからない。

この時間に来た理由は、以前この場所で理玖と翔くんがかち合った時間がこれくらいだったから。
今日はタイミングを見計らって待つ事にした。



行き違いにならぬようにと、ずっと同じ体勢のまま立ち止まっていると結構寒くて身体の芯から冷え込む。
冷たい風を浴びる度にブルっと震え上がる。



つい先日まで理玖は塾帰りの私を外で待ってくれていたけど、私がここで理玖の帰りを待つのは初めて。
人が賑わう駅前とはいえ、一人きりで待つのは少し寂しい。



毎回健気に迎えに来てくれた理玖は、一体どんな心境で私を待ち構えていたのだろう。