すると、咲は冷たいドリンクを両手で包み込んで言った。
「私、一人の女性として愛されたいし、私自身も心の底から愛せる人と一緒になりたい。だから、これからは自分なりに前向きに頑張っていこうと思ってるんだ」
「咲…」
「中学生の頃から翔くん以外の人は考えられなかったし、簡単に忘れる事は出来ないけど…。いつかは忘れなきゃね」
「うん…」
「愛里紗の部屋で卒業アルバムを見た時に、そろそろ気持ちにケリをつけなきゃダメだなって思いつつも、なかなか思いが断ち切れなくてつい思い浸っちゃったけど……。本当は、近くで大事に想ってくれてる人がいるから、過去の恋にケジメをつけなきゃね」
咲はそう言うと、少し照れ臭そうにして目尻を細めた。
話が予期せぬ方向へ進んだ事に驚くと、咲に丸い目を向ける。
「えっ、それって……」
「今はまだ気持ちに整理がつかないから次の段階へは進めないけど。…いつかは、木村くんの気持ちに応えてあげたいと思ってる。……もう、毎日のように好き好きって言われて困ってるの」
「……え、ノートや教科書を借りるくらいしかアピールが出来なかったあの木村が?」
「今はすれ違いざまに小声で言ってきたり、電話してる時に言ってきたり、ノートの切れ端に書いてそれを手渡してきたり。木村くんったら、毎日バリエーションが豊かだから参っちゃうよね」
咲はそう言うと、あははと苦笑いをした。
過去の恋から卒業に向けた前向きな気持ちは、新しいスタートラインに立つ為の準備を始めている。