「………愛里紗?」



翔は震えるように鼻をすすり固く口を結びながら感情的に涙を滴らせていく愛里紗に驚いた。

すると、愛里紗は目線を落としたまま翔の耳にギリギリ届くくらいの小さな声で呟く。



「私だって翔くんに会いたかったよ…」

「えっ……」


「神社から空を見上げれば、翔くんは今何してるんだろうって。元気にしてるかなって。手のひらを見つめたら、ポケットの中で繋いでくれた手のぬくもりを思い出して。寂しくて涙が溢れてきたら『泣いてる顔より、笑った顔の方が好きだよ』って言って涙を拭ってくれた事を思い出した。


会えると信じて止まなかった時間は希望に満ち溢れていた。…でも、会えないと思い始めてからの時間は闇に包まれていた時間だった。


翔くんが好きだから何年も何年も諦められなかった。……それなのに、簡単に忘れる訳…ない…じゃん…」



語尾が小さく掠れていく声は、身体に吹き付けている風の音にかき消される事なく翔の耳へとしっかり届けられている。




翔は愛里紗の想いが届いた瞬間恋する瞳で見つめると、大きな手のひらで愛里紗の両頬を包み込んだ。


そして、息をする間も無く愛里紗の顔に近付いていき…。

そっと唇を合わせた。