ミキの声に気付いた翔は、作業している手を止めて愛里紗達の方に目を向ける。



「あぁ…、俺ここの神社の人達と知り合いでね。人手不足だから店を手伝う事にしたんだ」

「一日しかないお祭りなのに大変だね」

「お仕事頑張ってね!」



幼いお客さんがわんさかと押し寄せ手を止められない彼に手を振って、私達はその場から離れた。



新しい街の初めてのお祭り。
威勢のいいかけ声で近所を回るお神輿は、タイミングが悪くて見れなかった。

母親に貰ったお小遣いは、焼きそばやわたあめやチョコバナナ代へ。



そして、楽しい時間はあっという間に過ぎていき……。
私達がお祭りで楽しんでいる中、遠目から見えた谷崎くんは休む事なく最後まで一生懸命働いていた。





賑わっていたお祭りも一通り周り終えてお腹いっぱいに。
夜も更けてきたので、私達は帰宅の途についた。

人の波に乗りながら友達と別れて神社の先の角を曲がった、その時。



「待って!」



聞き慣れた声が背後から呼び止めてきたので、後ろに振り向くと……。
さっきまで忙しそうに働いていた谷崎くんが後ろから走って追いかけてきた。



「谷崎くん……。どうしたの?」

「ハァッ……ハァッ………っ…、終業式の日に荷物を持って来てくれた事と、おにぎりのお礼してなかったから」



彼はそう言うと、先程までお手伝いしていたお店のヨーヨー二つを握りしめたまま差し出す。



「ええっ、悪いよ…。荷物は先生に言われたから持って来ただけだし、あの時のおにぎりは谷崎くんに温かいものを食べさせたかっただけだから」



ヨーヨーを受け取らず両手を横に振って遠慮がちにそう言う愛里紗に向かって、翔はヨーヨーを受け取らせるよう更にグイッと目の前に差し出した。



「このヨーヨー。お前がこの前作ってくれたおにぎりみたいだろ?」

「もう!」



ニカッと意地悪を言う彼は、目を腫らして泣いていたあの日から比べると、すっかり元気を取り戻していたように思えた。