すると、おじいさんは遠くの景色を眺めてすうっと息を吸った後に言った。
「愛里紗ちゃん」
「あっ、はい!」
「人生は一度きりしかないんじゃ。その一度だけの大切な人生の階段をたった一段踏み外しただけで怖くなって後ろを向いてしまっていないかい?」
「えっ!」
「もし、その先に少しでもチャンスがあるのなら、勇気を出して前に進んでみてはどうかな。もちろん失敗してもいい。…だが、失敗を恐れてチャンスを逃すのは勿体ないと思わないかい」
「……」
「人生に難は付き物なんじゃ。いい事も悪い事も常に抱き合わせなんじゃよ。今のままで愛里紗ちゃんは幸せかい?未来に目を逸らし続けても、幸せは一人でやって来ない」
おじいさんとは久しぶりに会ったけど、今の悩みを見透かすようなピンポイントなアドバイスに酷く驚いた。
秘め事が多くて誰のアドバイスも受け取れない状態だったけど、おじいさんの話は不思議と素直に聞き入れられる。
「愛里紗ちゃんにとって、いま一番何を優先すべきかをじっくり考えてみなさい。そうすれば自然と答えが導き出されてくるはずじゃ」
「…おじいさん」
おじいさんの言う通りだった。
私は自分を守る為になんだかんだ言い訳を並べて逃げてばかり。
先々を恐れるあまりに理由をつけては辛い事から目を背けてしまい、壊れていく事を恐れて真っ向勝負に挑もうとしなかった。
それは自分が常に安全圏に居たいから。
弱虫だから。
臆病だから。
勇気がないから。
ホントは情けない自分に嫌気が差していたのに…。