ーーホワイトデーを間近に控えた、三月上旬のある日。


夏期講習から通い続けていた塾を辞めた。


『三月分まで塾代を納入したから、せめて月末まで通いなさい』と、口論になった母親の反対を押し切るほど決意は揺らぎない。



塾の勉強がどうとか言うわけじゃない。
辞めた理由は気持ちの問題だった。



理玖と付き合い始めてからキスをするのが日課になっていた。

だから、最低でも週三日。
塾に行く日は理玖とキスをする日。
恋人の私達にとってキスはごく当たり前の事だった。



でも、運命のいたずらによって翔くんと再会した日を境に、自分の中の常識がひっくり返ってしまった。



バレンタインの前日に理玖からのキスを一度拒んだ後、三回に一回はキスをはぐらかすように。

以前まで熱く感じていたキスが、まるで鏡の向こうの自分にキスをしているかのよう冷たく感じ始めてしまった。

温もりが伝わって来ないわけじゃない。
冷たく感じたのは気持ちの問題だったのかもしれない。



理玖との恋愛を前向きに考えるようにしていても、既に軌道修正が利かなくなっている。