「ごめん…。ちょっと言い方がキツかった」



咲とはもう二度と喧嘩をしたくないから、反省と同時に頭を下げた。
すると、咲は指先で涙を拭うと首を横に振る。



「…ううん、私が悪かったの。確かに愛里紗の言う通り。本当は胸の内を語るかどうか悩んでた。でも、本音で言っていいなら遠慮なく言うね」

「うん……」


「愛里紗は親友だけどライバルでもあった。残念ながら、翔くんは今でも愛里紗の事が忘れられないんだよ」

「咲……」


「私、どう足掻いても愛里紗には勝てないの。普通、あれだけ意地悪をされたら嫌いになるよね。愛里紗が翔くんを忘れられないと知りながら、同じ髪型を結んでもらった足で告白しに行ったり、名前を伏せて彼氏自慢したり、幸せな自分を演じたり。自分でもどれだけ惨めな人間かわかっていたよ。


…でも、愛里紗は私を嫌いになるどころかいっときも手を離さなかった。ケンカをしている時でも、悪口を言ってた一組の子達の中に突っ込んで行って、咲は小さい頃から教師になるのが夢なんだよって、悪口を言っていいのは親友の私だけだよって、溢れんばかりの愛情で包み込んでくるんだもん。そんな人に勝てる訳がない……。


本当は諦めたくない。無意識に小学生の頃の翔くんを見たくなってしまうくらい恋してる。


……でも、翔くんの好きな人が愛里紗だから諦められる。今この瞬間も私を心配してくれたし、愛里紗には感謝の気持ちしかない。……親友でいてくれてありがとう。ライバルでいてくれてありがとう。世界で一番愛里紗が好きだよ……」



咲はそう言うと、瞳から再び涙を零した。
愛里紗は咲の想いが充分に伝わると、目頭が熱くなる。



「咲……、ありがとう。私も咲が大好き。これからもずっと親友でいたいと思ってるし、咲が親友じゃないと嫌だから。……それと、いっぱいごめんね」



咲を固く覆っていた鎧がポロポロと剥がれていくうちに、私も涙が止まらなくなった。

咲に本音を吐かせつつも自分は本音を吐く事が許されない。
だから、同時に謝った。



心の中に健在している翔くんへの想い。
それに加えて、翔くんが今でも私に恋心を寄せている事に気付いている。






咲、ごめんね。
…ズルいよね、私。

これからも咲を大切にしていきたいから、翔くんへの恋心は胸の中にしまわせてね。
その代わり、翔くんとの関係は断ち切るから。