「そっかぁ。翔と理玖が鉢合わせてケンカしちゃったか~。…辛かったでしょ」

「…うん」


「理玖とは中一と中二の時に同じクラスだったけど、怒るような人じゃなかったよ。明るくて誰にでも優しくて人気者だったね。…でも、翔の胸ぐらを掴んで殴りかかろうとするなんて、相当キテたんだろうね」

「あの時は別人のようだった。理玖イコール笑顔だったから、あんなに怒るなんて今でも信じられない」


「……でもね、あんたがいま付き合ってるのは理玖でしょ。心を決めて告白を受け入れたんでしょ。だから、これから先もずっとあんたの傍にいるのは翔じゃないよ」

「分かってる」


「あんたは翔への想いを断ち切った訳だから、翔が会いに来ても心惑わされちゃダメだよ」



そう……。
ノグの答えが正解。

私は早く翔くんを忘れて、理玖と今以上に良好な関係を築いていかなければならない。


理玖は毎日笑わせてくれるし、
宝物のように大事にしてくれるし、
私の気持ちを大切にしてくれるし、
困った時は力になってくれるし、
心から愛してくれている。

不足なんてない。
私には勿体ないくらい素敵な人。


それなのに、翔くんが出現する度に私の気持ちは全て持ってかれてしまう。
ダメだとわかっていても、簡単に気持ちを切り替える事は出来ないのだから…。



四方八方向いている自分に嫌気がさして、再びあの日の事を思い浮かべてるうちに悔しくなって涙が出てきた。



「…翔の事は忘れな。離れている間に縁が切れたと思わないと理玖が可哀想だよ。それに、あんたが泣いてると理玖が悲しむ。大事にしてくれてるんでしょ」

「うん……」



バレンタインの日から人知れず悩んでいた事を打ち明けて気持ちは少し楽になったけど、翔くんを忘れない限りはきっとこの先も同じ悩みをループし続けるだろう。