日が落ちて辺りが薄暗い景色に覆われる中、ネックレスが見付かって一段落した私達は、手をつなぎながら夕日が沈みゆく海岸付近の海が見える高台のベンチに腰を下ろした。



カバンのファスナーを開けて、中に忍ばせておいたバレンタインの紙袋を出して理玖に手渡す。

すると、理玖の膝下で紙袋からあっと言う間に引っぺがされたマフィンボックスは瞬く間に顔を覗かせた。



「お!このマフィンは過去に見覚えがあるぞ……。あはは、久しぶり」

『お久しぶりですぅ。今日もいい感じでこんがりしちゃってますぅ』


「ボクはどうしてまた日焼けしちゃったのかな?」

『はいっ!ボクは元々日光浴が好きだからで~す」



理玖がマフィンボックスを両手で持って動かしながら一人で語るその姿は、まるで腹話術をしているかのよう。
残念ながら地味に嫌味を言っている。



「あの…さ。それって、私に対して軽くイヤミを言ってるんだよね…。確かにチョコレートマフィンは焦げて失敗したけど、一人芝居やめてよ!」



理玖は先ほどまで泣き静まっていた私を笑顔にする為に、ツッコミどころ満載の黒光りしているマフィンを話題に上手く笑いを引き出してくれた。