「私がおにぎりを作ってあげる」
彼を喜ばせる一心でそう言ったものの…。
料理なんて出来ないから半分不安を感じて苦笑い。
炊飯器に残っている白米を手にすくい、慣れない手つきで転がしながら、彼の為を思って一生懸命おにぎりを握った。
「おにぎりが完成したから食べてね!」
不器用で不恰好の丸くて歪な形の大きなおにぎりを二つ作ってお皿に置き、ダイニングテーブルの椅子に座る彼の目の前に差し出した。
すると、彼はおにぎりを見るなりプッと吹き出す。
「ぷっ…、何だよこれ。おにぎりってのは三角じゃないの?」
さっきまでの彼は気分が落ち込んで口数が減っていたけど、不器用で不恰好なおにぎりを見た途端に笑顔が生まれた。
「ひどーい!一生懸命作ったのに」
愛里紗は不満を口にしながらも、翔が一瞬でも笑顔になってくれた事がとても嬉しかった。
翔はおにぎりを一つ手に取ると、ガブリと食いつく。
「ありがとう。ウマイよ」
そう言った彼の瞳からは涙が一粒こぼれた。
こんなに下手くそなおにぎりでも喜んでもらえたみたい。
腕前と味はまだまだだけど、愛情はたっぷり込めたから彼の笑顔に満足している。
彼が二つ目のおにぎりを手にした時、少し心に余裕が出来たので室内を軽く見回した。
私達が友達同士で通信し合って遊んでいる携帯ゲーム機は、この部屋には見当たらない。
学校と神社で遊ぶ以外の時間、一人っ子の彼は親が帰宅するまでの間、どのように過ごしているのだろうか。
知ってるようで知らない本来の彼の姿に、いくつかの疑問が残る。