ーー始業開始時刻まで残り5分。

クッキーに手を伸ばしていた手が止まったところで、咲は目線を落としてフゥと深いため息を漏らしながら蓋を閉じた。



「今日は理玖くんにバレンタインを渡しに行くんだよね」

「…あ、うん。学校が終わってから会う約束をしてるんだ。中学生当時と全く同じ物を渡すから進歩がないよね。あはは……」


「…ううん、幸せそうで羨ましい。二人は息がピッタリで仲がいいから、何気ない事ですら羨ましく感じちゃう」

「そうかな…。お互い慣れてきちゃうとつい感覚が麻痺しちゃって。理玖にいつでも会えると思ったら、会う事に特別感がなくなってしまうと言うか…」


「それはいま幸せだという証拠だよ。…いいなぁ。私にも彼氏がいたらチョコレート作りに張り合いがあったのになぁ」



咲はそう言うと、頬杖をつきながら遠い目を外に向けた。
まつ毛を軽くふせながら一点を見つめている瞳の奥には、一体どんな情景が思い浮かべられてるのだろうか。