咲は目の前でクッキーを次々と口にほおばっている愛里紗に、先程から気になっている事を聞いた。
「目が赤く腫れてるように見えるんだけど……。もしかして何か嫌な事があったの?」
「あっ……、ううん。昨日、理玖と一緒に映画を観て泣いたから…」
首を横に振って咄嗟に嘘をついた。
勿論、涙の理由を詮索されない為。
ところが…。
自分に都合のいい嘘をついたせいで、想定外の事態を引き起こしてしまう。
「へーっ、それって何ていう映画のタイトル?俳優は誰が出てるの?私も見たーい!」
すっかり嘘を信じ込んだ咲は簡単には引き下がろうとせずに目を輝かせながら興味を湧かせた。
迷惑かけぬようにと適当に考えた嘘なのに…。
「えっ…」
「偶然かも。私もいまちょうど泣きたい映画が観たいな~って思ってたところだったの。…ねぇねぇ、その映画ってどんな内容なの?」
残念な事に、向かい風で戻ってきた嘘の塊に脳内処理が追いつかず、クッキーへと伸ばしていた手が止まる。
これが、所謂身から出た錆というものだ。