ーーバレンタインの日の朝を迎えた。

今日は忽然と姿を消したネックレスを、理玖と一緒に探しにいく日。


カーテンの隙間から差し込む光は、薄暗くて弱々しい。
昨夜から大雨が降り注いで一晩経った今朝は、薄雲が隙間なく敷き詰められていた。

足元に所々に溜まっている水溜りが、通勤通学の足を次々と映し出している。



今日は理玖の分と咲の分の焦げたマフィンの入った紙袋をカバンの中で揺らしながら、いつもより少し早い時間に家を出て、家から駅までの道のりをくまなく目で追って紛失したネックレスを探した。

通り道でネックレスは見つからなかったから、駅前の交番や駅の窓口に出向いて落し物で届いてないかを聞き回った。



勿論、見つからなかった。

どこで落としたかさえ見当がつかない。
とりあえず学校帰りにもう一度気を配りながら探し歩いてみようかな。

そうやって何とか気を立て直しながら、定期をかざして改札口を通り抜けた。





昨日翔くんの一件があったせいか、咲とはちょっと顔を合わせづらい。
二人の別れに自分が関与してると知ってしまったから余計顔を見るのが辛い。


でも、私は咲の親友だから、これ以上咲が傷付かないように。
微々たる異変に気付かれないように。

今日からは二人の内情を知らない昨日の帰宅前までの自分を演じなければならなくなった。