『好きだ』
もし、消印通り手元に手紙が届いていたら。
運命に見放さなければ…。
私も彼も今とは違う人生を送っていたはず。
恋焦がれた時間も。
涙に包まれた時間も。
灰色の空だった時間も。
不安の色に染まっていた時間も。
全部全部、別の色に塗り替えられていたはず。
それなのに、どうして届かなかったの……。
「翔くん……翔くん………翔くんっ……」
愛里紗はやりきれない気持ちに包まれると、便箋にぽたぽたと涙を落とした。
「ごめんね……」
一通も返事が届かずに寂しい想いをしていたのに、また一人ぼっちにしてごめんね。
気持ちに応えてあげれなくてごめんね。
何度謝っても足りないくらい彼を傷付けてきた。
私がポストを開けていた頃、きっと彼も同じようにポストを開けていただろう。
自分が書いた手紙が届いていない事を知らぬまま、私からの返事を待ち続けていたはず。