「ごめん。今はそーゆー気分じゃなくて…」



愛里紗は暗い表情のまますかさず謝った。
すると、理玖は切ない目つきのまま言う。



「そうだよな。お前の気持ちも考えずにごめんな。いくら何でも今はキスしたい気分じゃないよな」



理玖はやりきれない気持ちはぐらかすかのように頭をくしゃくしゃとかいた。



私は理玖の心の傷を修復しようと思ってる気持ちとは裏腹に、思い通りにいかない自分がいる。

理玖は私の何十倍も傷付いてるのに。
こんな時こそ寄り添ってあげなきゃいけないって思ってるのに。

一体、何をやってるんだろう。






時を刻むと共に雨足が強くなり、家路に向かう私達二人を襲った。



理玖は翔くんが私を抱きしめている現場に遭遇した挙句、今にも殴りかかりそうなくらい衝突して心が壊れそうになっていた上に、私からキスを拒まれたのだから、口には出さないけど相当なショックを受けたに違いない。

だから、帰り道の今は二人の間の空気が悪い。



お互い傘を持ってなかったから、理玖は私が雨に濡れないように、自分のコートを脱いで二人の頭上にコートを被せた。

理玖はこんな最悪な状況の時ですらバカみたいに優しくしてくれる。

だから、余計おかしくなりそう。




理玖の気遣いで身体は濡れなかったけど、自宅玄関の照明で理玖の右半身がズブ濡れな事に気付いた。
浴室からバスタオルを持ってきて、コートを叩くように水滴を染み込ませてから傘を貸して家に帰した。


理玖の優しさは、痛いほど心に染みている。