二人が衝突した現場から五分ほど歩くと、暗闇の隙間から冷たい雨粒が頬に叩きつけた。
雨粒の元を辿るように見上げた空からは、パラパラと放射状でまばらに雨が降り注ぐ。

小さな雨粒はまだ髪に水滴が絡む程度。
理玖のコートにも街灯で反射した雨粒がキラキラと光っている。





理玖の指先からは、熱い血が流れているような感覚が伝わってくる。
不機嫌に進み行く足は、静寂に包まれている住宅街に差し掛かった。



彼が足を止めた先。
そこは、私が理玖にファーストキスをした場所。
強く握り締めている手は、私の心と身体を引き止めている。



「くっそ……」



理玖の口から零れたひとこと。
悔しさが表沙汰になっている。



私は彼の正面に周った。
俯き様に髪で表情を隠している様子は先日この場所に来た時と同じ。
指先で前髪を触る仕草で隠しきれない表情を誤魔化している。



正直、今はどう声をかけてあげればいいのかわからない。



理玖が翔くんに殴りかかろうとするなんて思いもしなかった。

確かに自分の彼女が他の男に抱かれていたら気分は悪いと思うけど、あの時は人を殺し兼ねないくらい冷血な目をしていた。
普段からは想像がつかないほど。


以前二人が顔を合わせた時は、一体どんな話し合いが行われていたのだろうか。
小さな棘は幾度となく胸を痛めつけてくる。