翔くん、バカだよ……。

私の事なんてさっさと諦めれば、こんなに辛い想いをしなくて済んだのに。
両親の離別であの頃から計り知れないくらいに心に深い傷を負っていたのに。


カフェで関係に終止符を打っておけば、ここまで二人が傷付け合う事はなかった。
こんなに苦しい未来が待ち受けているなら、再会を願わなければ良かった。
手紙が届かない時点で素直に諦めれば良かった。


愛里紗は、翔に馬乗りになっている理玖の背中を全力で抱きしめた。



「理玖…、もうケンカはやめて。お願い」



ケンカを食い止めるのは当然私しかいない。
指一本一本に引下がる願いを込めながら、怒りに満ちている理玖の身体を包み込む。


すると、ようやく気持ちが届いたのか、まるで緊張から解き放たれたかのようにフッと力が抜けた。
我慢をしたかのように拳を下ろして不機嫌に距離を置くと、翔くんを見下げたまま私の手をギュッと強く握り締めた。



「……行くぞ」

「えっ、でも……」


「いいから、行くぞ!」



理玖は吐き捨てるようにそう言うと、翔くんを睨みつけたまま私の手を引っ張って荷物を拾い上げた後、野次馬の間を通り抜けて行った。

理玖に手を引かれたまま翔くんの方に振り返ると、彼は腑に落ちない様子で唇を固く結んでいた。