愛里紗は顔面蒼白のまま手荷物を捨てて、振り上げている拳にしがみついた。



「理玖、ケンカはダメ……。今すぐ翔くんから手を離して。ねっ!」

「……お前、何で愛里紗の前に現れた。この前、目障りだから消えろって忠告しただろ?」

「お前に忠告される覚えはない」



互いの距離はおよそ30センチ。
二人はお互いを睨みながら罵り一触即発の状態に。
もはや、仲裁は無意味に感じるくらいに…。



騒々しい様子に気付いた通行人はパラパラとまばらに足を止めた。
だが、三人は野次馬が視界に入らないほど緊張状態が続いている。



「まだ気付かねぇの?あんたが愛里紗の笑顔を奪う元凶なんだよ!だから俺は愛里紗の笑顔を守る為に今日まで一日も欠かさず努力してきたんだよ」

「俺こそ愛里紗の笑顔を守っていきたいと思ってる。今まで散々傷付けてしまった分、少しずつ穴埋めしていくつもりだ。だから、愛里紗の気持ちを聞きに来たんだ」


「…はぁあ?愛里紗に気持ちを聞いてどーすんだよ」

「返事次第でお前から返してもらうつもりだった。俺はもう一度愛里紗とやり直したいし、これ以上後悔するつもりもない」

「理玖…翔くん、もう辞めて。少し落ち着いて話そ」



興奮が冷めやらぬ空気に一旦クッションを置くように割って入るも、アツくなっている二人の耳には届かない。